不動産コラム

2026年7月28日

事業用物件の保険ガイド|火災保険・借家人賠償・施設賠償の考え方

オフィスや店舗を借りるとき、契約書に「借主は火災保険に加入すること」といった条項が入っているのが一般的です。指定された保険にそのまま加入して手続きを終えてしまうことも多い項目ですが、何がどこまで補償されるのかを把握しないままだと、実際に事故が起きたときに想定と異なる結果になりかねません。建物にはオーナーが保険をかけていますが、それによって借主側の損害が補償されるわけではない点が出発点になります。

本稿では、名古屋市内で事業用物件を検討する総務・管理部門の方向けに、テナントが検討する主な保険の種類と役割、補償の対象と金額の考え方、契約時に確認しておく条項、事故発生時の流れ、そして更新や移転にあたっての手続きを整理しました。補償の範囲や名称は保険会社・商品によって異なり、実際の適用は約款に基づきます。個別の補償内容については保険会社または代理店にご確認ください。

テナント側で保険を検討する理由

建物の保険では自社の損害は補償されない

建物にはオーナーが保険をかけているのが通常ですが、その対象は建物本体です。借主が持ち込んだ什器・備品・機器、自社で施工した内装造作は対象に含まれません。火災や水濡れによってこれらが失われた場合、補償を受けるには借主自身が保険を用意している必要があります。

借りている区画を壊した場合の責任

借りている区画を損傷させた場合、貸主に対して原状に復して返す義務があります。自社の過失による火災や漏水で建物に損害を与えたとき、その賠償責任は借主が負うことになります。金額が大きくなりやすいため、契約書で保険への加入が義務づけられているのが一般的です。

第三者に損害を与えた場合の責任

来客が店内で転倒した、看板が落下して通行人に当たった、店舗の設備から水が漏れて階下のテナントに損害を与えたといった場面では、第三者に対する賠償責任が生じます。自社の財産の補償とは別の枠組みで備える必要があります。

テナントが検討する主な保険

名称は保険会社によって異なりますが、役割で整理すると次のように分けられます。

什器・備品・内装造作を対象とする保険

火災・落雷・破裂・爆発のほか、水濡れ、風災、盗難などによって自社の財産が損害を受けた場合に備えるものです。対象にどこまで含めるかを決める必要があり、パソコンなどの機器、書類、商品在庫、自社が施工した内装造作をそれぞれ検討します。

借家人賠償責任

借りている区画に損害を与え、貸主に対して賠償責任を負った場合に備えるものです。多くの契約でこの補償を含む保険への加入が求められます。補償される事由が火災等に限定されている場合と、水濡れなども含む場合があるため、範囲を確認することが重要です。

施設賠償責任

施設の管理不備や業務の遂行に伴って、第三者の身体や財物に損害を与えた場合に備えるものです。来客が出入りする業態、看板や設備を屋外に設置している場合、上下階に他テナントがいる建物などでは検討の必要性が高くなります。

休業や利益に関する補償

事故によって営業を続けられなくなった期間の損失や、復旧までに要する費用に備えるものです。設備が事業の中核にある業態、代替の拠点を確保しにくい業態では、検討する価値があります。

その他の備え

情報の漏えいやシステム障害に関する補償など、業種によって検討対象となるものがあります。物件に紐づく話ではありませんが、事業の継続という観点では同じ枠組みで整理しておくと抜けが減ります。

補償の対象と金額の考え方

内装造作が誰の資産かを整理する

入居時に自社の費用で施工した内装造作は、通常は借主側の財産として扱われます。一方、もともと建物に備わっていた設備は貸主側の資産です。どちらの扱いになるかによって、保険をかけるべき主体が変わります。居抜きで前テナントの造作を引き継いだ場合は特に整理が必要な部分です。

保険金額の設定

補償の上限をいくらに設定するかは、対象となる財産の価値を積み上げて判断します。設定額が実際の価値を下回っていると、損害が生じても十分な補償を受けられない可能性があります。什器を追加購入したり設備投資を行ったりした際は、金額の見直しが必要かを確認します。

地震や水災の扱い

地震を原因とする損害は、通常の火災に関する補償では対象外とされているのが一般的です。備える場合は別の枠組みが必要になります。水災についても、補償の対象となるかは商品や契約内容によります。物件の立地に応じて、必要な備えを検討します。

契約時に確認しておく条項

加入が義務づけられているか

賃貸借契約書に保険加入に関する条項があるかを確認します。加入すべき補償の内容が具体的に指定されている場合と、「相当の保険に加入すること」といった表現にとどまる場合があります。後者の場合、どの範囲まで用意すれば足りるのかを貸主・管理会社に確認しておくと安心です。

指定の保険か自社手配か

貸主や仲介会社が指定する保険への加入を求められる場合と、自社で手配した保険でよい場合があります。すでに他拠点で法人向けの保険をまとめて契約しているなら、自社手配のほうが管理しやすいこともあります。可否を確認したうえで判断します。

証券の写しの提出

加入の証明として保険証券の写しの提出を求められることがあります。更新のたびに提出が必要な場合もあるため、社内の管理担当を決めておくと漏れが防げます。

保険期間と契約期間の関係

賃貸借契約の期間と保険期間が一致していないと、契約更新後に無保険の期間が生じるおそれがあります。両方の満了時期を一覧で管理しておくのが安全です。

事故が起きたときの流れ

速やかな連絡

事故が起きたら、保険会社または代理店への連絡と、貸主・管理会社への報告を速やかに行います。連絡が遅れると状況の確認が難しくなるため、緊急連絡先を社内で共有しておきます。

状況の記録

損害の状況を写真などで記録します。復旧を急ぐ気持ちが働く場面ですが、記録を残す前に片付けてしまうと状況の説明が難しくなります。

原状回復との関係

建物に与えた損害の復旧は、貸主・管理会社との調整が必要です。工事の手配を誰が行うか、費用の精算をどうするかは、保険の手続きと並行して進めることになります。契約書の修繕負担区分と照らして、責任の所在を整理します。

更新・移転・解約時の手続き

更新の管理

保険期間が満了すると補償は途切れます。自動更新の手続きになっているか、都度手続きが必要かを確認し、社内で期日を管理します。契約更新のタイミングで補償額の見直しも行うと、実態との乖離を防げます。

移転にあたっての切替

移転する場合、保険の対象となる所在地の変更手続きが必要です。旧拠点と新拠点を並行して使用する期間があるなら、その期間の扱いも確認します。手続きの漏れによって、移転後の期間が補償対象外になる事態は避けたいところです。

解約時の取り扱い

契約期間の途中で解約する場合、保険料の扱いは商品によって異なります。退去のタスク一覧に保険の解約手続きを入れておき、必要な手続きを確認します。

確認リスト

  • 賃貸借契約書に保険加入に関する条項があるか、指定の内容は何か
  • 指定の保険に入る必要があるか、自社手配が認められるか
  • 什器・備品・機器・在庫・内装造作のうち、何を補償の対象にするか
  • 居抜き入居の場合、引き継いだ造作の資産としての扱い
  • 借家人賠償責任の補償範囲(火災のみか、水濡れ等も含むか)
  • 来客や第三者への賠償に備える必要があるか
  • 休業した場合の損失に備える必要があるか
  • 地震・水災の扱いと、物件の立地に応じた必要性
  • 保険期間と賃貸借契約期間の満了時期
  • 証券の写しの提出先と、更新時の提出要否

よくあるご質問

Q. 建物にはオーナーの保険があるのに、なぜ借主も加入するのですか?

A. オーナーの保険は建物本体を対象としており、借主が持ち込んだ什器や自社で施工した内装造作は対象に含まれないのが一般的です。また、借主の過失で建物に損害を与えた場合の賠償責任は借主が負います。役割が異なるため、それぞれが備える必要があります。

Q. 指定された保険ではなく、自社で契約している保険を使えますか?

A. 契約内容によります。貸主が求める補償内容を満たしていれば自社手配が認められることもありますが、指定の保険への加入が条件になっている場合もあります。複数拠点をまとめて管理したい場合は、契約前に可否を確認してください。

Q. 居抜きで引き継いだ内装は誰の保険の対象になりますか?

A. 造作の所有権が誰にあるかによって扱いが変わります。前テナントから譲り受けて自社の資産となっている場合は借主側で備える対象になり、貸主の所有物として残されている場合は扱いが異なります。引き継ぎの際に権利関係を書面で整理しておくことをおすすめします。

Q. 地震による損害は補償されますか?

A. 地震を原因とする損害は、通常の火災に関する補償では対象外とされているのが一般的です。備えるには別の枠組みが必要になります。詳細は保険会社または代理店にご確認ください。

Q. 保険料はどのくらいかかりますか?

A. 対象とする財産の内容、補償額、業種、建物の構造などによって大きく変わるため、一律の目安を示すことは困難です。物件の候補が固まった段階で見積もりを取り、初期費用と月次費用の試算に含めておくことをおすすめします。

Q. 移転したら保険はそのまま使えますか?

A. 対象となる所在地が変わるため、変更の手続きが必要です。手続きを行わないと、移転後の拠点が補償の対象にならないおそれがあります。移転のタスク一覧に保険の変更手続きを入れておいてください。

まとめ

テナントが検討する保険は、自社の財産を対象とするもの、借りている区画に損害を与えた場合の賠償に備えるもの、第三者への賠償に備えるもの、そして事業が止まった場合の損失に備えるものに整理できます。建物にオーナーの保険があっても借主側の損害は補償されないため、それぞれの役割を理解したうえで必要な範囲を決めることが重要です。

契約時には、加入義務の条項の内容、指定の有無、証券の提出要否、そして保険期間と契約期間の整合を確認します。移転や更新の際の手続き漏れは無保険の期間を生むため、社内での期日管理が欠かせません。補償の範囲や名称は保険会社・商品によって異なり、実際の適用は約款に基づきます。個別の補償内容は保険会社または代理店にご確認ください。名古屋市内で事業用物件をお探しで、契約条件の整理が必要な場合は、当社までお気軽にご相談ください。

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